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データを直接共有せずに解析や計算を実行できるフェデレーテッドラーニング。連合学習ともよばれる機械学習の手法ですが、データを共有せずに解析や計算ができることについて疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
今回は、具体的な活用事例を交えながらフェデレーテッドラーニングの仕組みや処理の流れを詳しく解説します。
【事例で解説】フェデレーテッドラーニング(連合学習)のしくみ
フェデレーテッドラーニングとは、データ自体を直接共有せずに個々のデバイスやローカル環境でAI解析を行い、そこで得られた解析結果や要素のみを収集・統合する機械学習の手法です。
しかし、この説明のみではフェデレーテッドラーニングについて理解しにくいのではないでしょうか。そこで、フェデレーテッドラーニングが用いられている事例をベースに、仕組みや処理の流れについて解説しましょう。
フェデレーテッドラーニングの仕組みについてはこちらのリンクをご参考ください。
フェデレーテッドラーニングの活用事例
近年急速に社会実装が進み、注目を集めているフェデレーテッドラーニングですが、なかでも金融機関における不正取引の検知への活用は代表的な事例といえます。
金融機関では、特殊詐欺による不正な送金が年々巧妙化しており、金融機関側も不正な送金や取引がないか監視を強化しています。これまで時間帯や金額、地域等の比較的想定しやすい属性情報をもとに検知システムを構築していましたが、想定外のケースを検知できない等の課題がありました。AIによる解析技術が活用されるケースも見られますが、単独の金融機関内で蓄積されたデータだけでは不十分なケースも多く、さらにデータの共有・連携時には個人情報保護等の課題もあり、データの利活用が進みにくい現状も見られます。
フェデレーテッドラーニングの活用により口座番号を含む個人情報を直接共有することなく、異常や不正の特徴のみを検知可能。これにより法規制の問題をクリアすると同時に、金融機関内だけでは検知できない特殊な不正の手口やパターンも共有が可能です。
フェデレーテッドラーニングの処理の流れ
フェデレーテッドラーニングの基本的な処理の流れは以下のとおりです。
- 特長データの収集(ローカルAI)
- AIによるスクリーニング(共通基盤のAI)
- 解析結果を共有(ローカルAI)
それぞれの処理について、具体的に解説します。
1.特徴データの収集(ローカルAI)
あらかじめ各金融機関のサーバに構築した共通のローカルAIモデルへ不正取引処理のデータを入力し、解析を実施。不正取引の特徴データのみを抽出・収集し、クラウドに構築された共通のAIシステムへデータをアップロードします。
例) 過去1カ月間に◯万円の振り込みを◯回実施した 過去1カ月間に◯万円の振り込みが◯回あった |
2.AIによるスクリーニング(共通基盤のAI)
クラウド上のAIシステムでは、収集した特徴データに対し、スクリーニングを実施。不正取引の疑いがあるデータを検知し、不正のあった取引を各銀行へ共有します。通常、一銀行ではデータ量が不足し満足のいく精度が出ないといったこともありますが、フェデレーテッドラーニングでは各金融機関の持つデータをもとに学習を行うため、セキュアな状態を維持したまま高い精度の分析が可能です。
3.解析結果を共有(ローカルAI)
共通のAIシステムから送られたスクリーニング結果を、各金融機関のローカルAIへ共有しアップデートを行います。このように共通のAIシステムが割り出したアルゴリズムをローカルAIが繰り返し繰り返し学習することで、今後同様の取引があった際に不正を検知できるようになります。
国内外のフェデレーテッドラーニング(連合学習)の活用事例
上記で紹介したとおり、フェデレーテッドラーニングの代表的な活用事例には金融機関の不正取引が挙げられますが、このほかにもさまざまな分野への社会実装が進んでいます。このセクションでは、代表的な企業による活用事例を紹介します。
NVIDIA社:NVIDIA FLARE
NVIDIA社では、フェデレーテッドラーニングをさまざまな業種・企業で利用できるよう、「NVIDIA FLARE」というSDK(ソフトウェア開発キット)をオープンソースで提供しています。
これを活用することで、既存の機械学習およびディープラーニングをフェデレーテッドラーニングに適応できます。
「NVIDIA FLARE」は金融サービスをはじめとして、製造業やヘルスケア等の業界にも提供される見込みです。特に医療分野では、放射線画像の診断やバイオメディカルの研究等にも応用が期待されています。
Google社:Gboardへの応用
Google社が開発したスマートフォン向けOS「Android」には、仮想キーボードアプリ「Gboard」がプリインストールされています。
「Gboard」はスマートフォン上で入力されたデータを学習し、学習内容の一部は暗号化されたうえでGoogleへ共有されます。そして、ほかのユーザーから送信された情報と組み合わせ、新たな単語やトレンドに関するワードが変換候補として表示されるようになります。
このように、スマートフォンの予測変換機能を安全に利用するうえで、フェデレーテッドラーニングは不可欠な技術といえます。
まとめ
フェデレーテッドラーニングはデータそのものを共有しないという性質上、プライバシーを担保したまま学習が可能です。近年は、データ利活用やAIのニーズが高まっているもののデータプライバシー、セキュリティの観点から個人情報保護等の法規制が強化されると考えられます。フェデレーテッドラーニングは、これらの課題解決策として注目を集めており、今後ますます社会実装が進む分野と考えられます。
EAGLYSでは、フェデレーテッドラーニングの社会実装支援のほかにもAI解析等のデータ利活用とデータのセキュリティを両立する解決方法として秘密計算サービスの提供も行っています。AI活用時のセキュリティ対策や、フェデレーテッドラーニングを用いた社内外でのセキュアなデータ利活用を検討されている方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。