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FHE.org 2025 Conference & Real World Crypto 2025 参加レポート

 

EAGLYSリサーチャーの若杉です。普段は秘密計算、特に準同型暗号の研究開発業務に取り組んでいます。

2025年3月ブルガリアの首都であるソフィアにて、完全準同型暗号(Fully Homomorphic Encryption,FHE)に関するワークショップ FHE.org 2025 Conferenceと 、世界最高峰の学会 Real World Crypto 2025 が開催されました。本カンファレンスでは、最先端の秘密計算技術や現実のシステムにおける暗号技術に関して、世界中の暗号研究者や開発者がその成果を発表します。論文でよく名前を見かけるような一流の方が発表されることも珍しくありません。

EAGLYSでは完全準同型暗号の最新動向をキャッチアップするため、社内の暗号研究者が現地ブルガリアに行って聴講してきましたので、その様子をお伝えできればと思います。ちなみに、ブルガリアは東ヨーロッパ、バルカン半島の東部に位置する国です。

Bulgaria_map


◾️学会のページ
FHE.org 2025 Conference
https://fhe.org/conferences/conference-2025/

Real World Crypto 2025
https://rwc.iacr.org/2025/

3月23日〜24日:日本からブルガリアへ移動

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日本時間の3月23日 22:00ごろに羽田空港を出発、途中トルコのイスタンブールを経由して、現地時間で3月24日 8:00ごろ(日本時間で3月24日の15時ごろ)ブルガリアに到着しました。日本はまだ寒い時期でしたが、ブルガリアは15℃前後くらいの涼しく過ごしやすい気温でした。ちなみに17時間という長時間フライトによる疲れと時差ボケで、ホテルにチェックインした後はずっと寝ていました。前乗りして良かった。

3月25日:FHE.org 2025 Conference

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初日はFHE.org 2025 Conferenceに参加しました。準同型暗号の実用化と普及に向けたコミュニティプラットフォーム、FHE.orgが主催する学会です。実はEAGLYSが例年スポンサーとしても参画している学会で、今年も会場にはEAGLYSのロゴが掲載されていました。遠く離れた地で見るEAGLYSロゴは安心感が段違いです。参加者はおよそ60〜70人ほど。日本からのほかの参加者は、いなかったと記憶しています。

本学会では、完全準同型暗号の提案者である Craig Gentry (クレイグ・ジェントリー)氏による発表もありました。暗号化された行列に対して、それらの行列積をどのように高速化するかのアルゴリズムに関する内容でした。

「学会」と聞くと、重苦しい雰囲気を想定される方もいらっしゃるかもしれませんが、FHE.org 2025 Conferenceでは気さくにディスカッションや交流をしている参加者が多かったです。プレゼンテーションのセッションと並行してポスターセッションも開催されていたため、発表の休憩時間中も含めて、常に準同型暗号のことを考える1日となりました。

 

 

3月26日〜28日:Real World Crypto 2025

realworldcrypto2025

翌日からは3日間、同じくブルガリアで開催されたReal World Crypto  2025に参加してきました。暗号学研究者と実装する開発者を結びつけ、両コミュニティ間の対話の強化を目指している学会です。発表に加えて、耐量子計算機暗号に関する議論、マルチパーティ計算の実世界応用、といったワークショップも開催されました。

RSA暗号の提案者で知られる Shamir(シャミア)氏による招待講演も行われました。準同型暗号を含む多くの暗号技術は、デジタルなコンピュータ上で動作するように設計されます。しかし、機械学習などのアプリケーションでは、実数を用いることから、アナログなコンピュータで動作することが想定されます。そこで、アナログなコンピュータ上で設計される新しい暗号技術について提案され、そのセキュリティについても述べられました。現在の暗号技術の根幹そのものに対する問題提起であり、非常に興味深い発表でした。なお、本発表は論文投稿もされておりますので、興味のある方は下記URLよりご閲覧ください。

How to Securely Implement Cryptography in Deep Neural Networks
https://eprint.iacr.org/2025/288.pdf

Real World Crypto  2025は、657名の参加者だったようです。こちらは日本からも多くの方が参加されていました。毎日昼食がバイキング形式で提供されるのですが、非常に長い列だったことを覚えています。最終日の昼食で、キュウリがねり込まれた緑色のバンズにサーモンが挟まれたハンバーガーが提供されましたのですが、なんとも言えない個性的な味でした(笑)

 

3月29日:ブリガリアから日本へ帰国

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そして無事に帰国すると、日本はなんと25℃。暑すぎる……なんとも気温の変化が激しすぎる1週間でした。体調崩すって。

暗号理論や技術に関する世界トップレベルの学会はほかにもありますが、FHE.org や Real World Crypto は、理論的な内容が少ないためか、気軽な雰囲気で発表を聴講することができます。実際、Real World Crypto の途中ではLightning Talk も開催され、さまざまなワークショップの案内が発表されたりしましたが、終始コミカルな雰囲気でした。

準同型暗号のみならず、一般的な暗号理論および技術に関しても非常に多くの知見が得られました。弊社もこれらのイベントで発表してコミュニティに組み込まれるように日々の研究開発業務を加速させていきたいと考えています。

 

Profile

 

EAGLYS リサーチエンジニア

若杉飛鳥

千葉大学を修了し、暗号理論、特に耐量子計算機暗号を専攻。2023年にEAGLYSへ参画し、秘密計算技術に関する理論から社会実装まで手広く従事している。
https://qiita.com/0917laplace
 https://zenn.dev/0917laplace

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